Vol. 4「少年時代」
Vol. 4「少年時代」
優しく吹いてくる心地よい風。やんばるの小さな島にアロハホテルを開業したのは、
丘の上に吹くあの風のせいかも知れない。
風。
それは言葉通りの意味であり、楽園や理想郷といった比喩で あり、幸せの代名詞でもある。
振り返れば、僕はいつもあの風を求めて旅をしていたように思う。
さて、アロハホテルのことはいずれ話すとして、僕が最初にあの風を感じた少年時代から
物語を進めていきましょうねー。
僕は那覇で生まれてその街で育った。戦後はだいぶ混乱していたものの、人々の混沌としたパワーが一気に経済に進み、日本全体が活気で溢れ、ご多分にもれず那覇の街も賑わっていた。
1973 年まで続く高度経済成長期に十代を過ごした。
父は叩き上げの職人で、独学で仕事を学び苦労しながら設備屋になったらしい。
昼間は建築現場でおおいに働き、夜は桜坂でおおいに飲んだ。
母は「サザエさん」に登場するフネのような古風な女性で、気品があり清楚でありそして寡黙だった。そんな母は亭主関白だった父を文句も言わずによく支えていた。
僕たちの家族は決して裕福ではなかったけれど、みんな豊かで真っ直ぐと生きていた。それがあの時代の一般的な家庭だったように思う。
ある日、父が家族でドライブに連れて行ってくれた。初めての遠出は本島北部・羽地にある源河川だった。街で育った僕はやんばる(山原)に行くのが新鮮だった。
車で街を離れると次第に交通量も減り、視界が広がるのを感じていた。色彩もゆっくりと変化して緑がより深く濃くなっていった。僕は移りゆく風景を車窓からぼんやりと眺めているのも好きだった。 やんばるに着くと源河川でバーベキューをした。
今となってはど んな物を食べ、どんな遊びをし、どんな話をしたのかはすっかり忘れてしまったけれど、
あの時に感じた森に吹く風は今も憶えている。
家族みんなで川辺に腰掛けて両足を冷たい水に突っ込んで、ゆるやかに流れる川を眺めた。
しばらくして森の木々がざわめくと涼しい風が吹いてきた。
やがて僕は目を閉じて風だけを感じた...。
あの何とも言えない感覚。 僕のすべてが満たされて心地良かった。 それが幼い頃の幸せな記憶のひとつとなった。
あれから随分と時は経ったが、風が与えてくれたあの感覚を求める自分がいる。
つづく