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1月 25, 2021の投稿を表示しています

Vol.20 「モーテルにて」

 Vol.20 「モーテルにて」 グレイハウンドバスでのアメリカ大陸横断がはじまった。宿泊はなるべく安く済むように心がけた。バスターミナルの長椅子で寝たり、深夜便で移動しながら朝を迎えることもあった。ホテルは大抵が安いモーテルだった。アメリカのモーテルは、日本のようなラブホテルと同様な扱いではなく、格安のビジネスホテルと言った方がピッタリだ。長距離ドライブの客が多いためにフリーウェイの近くにあり、サービスも最小限、場所によっては半年や1年以上も長期に渡って宿泊する者もいる。住居を追われた貧困層たちの最後の逃げ場ともなっており、今でもアメリカの深刻な貧困問題のひとつとなっている。 砂漠地帯をバスは煙を立ててひたすら走り、ニューメキシコ州のアルバカーキに到着した。砂漠の真ん中に町がポッカリあるような所で、多くのネイティブアメリカンが住んでいるという。僕は慣れないバス旅行で疲れ果てており、ターミナルに到着するやいなや、近くの安いモーテルへと直行した。僕はなるべく静かな部屋がいいと思い、フロントから一番離れた角部屋を頼んだ。部屋は小さいがこざっぱりとしていた。ライトは間接照明しかないので日本人の僕には薄暗く感じた。シャワーを浴びる後で飲むビールが欲しくてフロントへと向かった。部屋から出ると、すぐ隣の部屋前でひとりの初老の大男が夕涼みなのか椅子を出して座ってビールを飲んでいた。大男はかなり太っていて、暑いのか上半身は裸だった。僕が軽く会釈して通り過ぎようとすると、大男が話しかけてきた。気さくな方で、ビールを買いに行くと話すと「ビールなら部屋にあるから一緒に飲もう」と誘ってくれた。 大男の部屋には僕の部屋と同じく、ベッドと小さな食卓テーブルしかなかった。ただ、ベッド横のサイドボードには(おそらく妻であろう)女性の写真が飾ってあった。僕たちは椅子に腰掛けて、ビールを飲みながら話をした。彼がこのモーテルの長期滞在者であること知った。写真の彼女は生きているのだろうか?それとも遠く離れた場所で彼の帰りを待っているのだろうか?気になって写真の女性を尋ねてみると、「ガールフレンドだ」とだけ彼は答えた。ビールを2、3本ほど飲むと、旅の疲れか酔いも早く眠くなった。大男は「暑いからシャワーでも入りなよ」と言ってくれた。普段なら断るのだが、ビールで気分が良かったこともあり、彼の部屋でバスルームを使