Vol.15 「新しい風の中で」 東京で大学生活をはじめたのは1975年の春だった。 社会の変革を求めた若者たちによる政治運動は尚も続いていた が、暴力による革命の虚しさが同世代に暗い影を落とし、学生運 動は徐々に下火となった。故郷では、日本復帰記念事業としての 国際海洋博覧会が夏にあり、総合的な経済開発で社会基盤が一挙 に整備され、観光立県としても島全体が湧いた時期だった。 さて、僕の大学生活である。本来ならキャンパスライフを満喫 しながら勉学にも勤しみ、将来のために就職先を選ぶのだけれど、 そもそも僕の計画に「大学生活」自体が入っていなかった。 僕の最終目的は「アメリカに移住すること」であり、よって大 学生活は「出発準備期間」でしかなかった。まずは在学中に少な くとも一度はアメリカに渡り、その土地の生活を知ることが最初 の目標だった。となるとお金が必要になる。実際、僕は大学の4 年間をほとんどバイトに費やした。 当時のことで記憶は定かではないが、東京からロサンゼルスま で安い便なら往復10万円だった。現地には1ヶ月近く滞在した かったので旅には合計30万ぐらいは必要だろう。マクドナルド の時給が350円の時代である(あくまでも僕の記憶。現在1000 円ほど)。 僕は手っ取り早く金を稼ごうと1日6000円のギャラに惹かれ て建設工事現場で働いた。さすが高額だけあって仕事は過酷で、 朝から晩まで肉体を酷使すると後は帰って寝るだけだった。 仕事に慣れても、余った時間に英会話の勉強をやる気力はなく、 いつも音楽を聴きながら本や雑誌を読んで寝るだけだった。まあ、 目的はお金なのだから文句はないが、単純作業の日々は二十歳の 若者にはひどく退屈だった。 だから同い年で気の合う仕事仲間が入ってきた時は嬉しかった。 しかしその男は少々風変わりで仕事中でも時間があれば「宗教と は何か?」「仏とは何か?」「悟りとは?」などと難しい質問を 矢継ぎ早に浴びせかけてきた。それで僕が一言ぐらい返答すれば、 後は彼が延々と話し続けるのだった。 最初は呆れ顔で彼の話を聞いていたが、次第に話も面白く感じ るようになり興味深く聞いていた。肉体だけでなく頭までフル回 転させるバイトは有意義だったが、彼は悟りをひらくために(実 際は肉体労働に飽きて)仕事を辞めてしまった。 僕自身も単調な毎日に退屈を感